津軽ではさなぶりに虫送りを行います。虫送りはかつてはどこの集落でも行われていましたが、今では五所川原市の「奥津軽虫と火まつり」や、旧相内村の「相内の虫送り」で大きな祭りとして見ることができます。また地元の祭りとして行っている集落もあります。虫送りとは違うのですが、今別町の「今別の荒馬」もさなぶりの祭りです。
※旧相内村は1955年(昭和30年)に相内村、脇本村、十三村と合併して市浦村に。2005年(平成17年)には市浦村、金木町、五所川原市が合併して新五所川原市になりました。
弘前藩の書物「永禄日記」には1627年6月、稲虫おびただしく虫送り行うと書かれています。他にも菅江真澄(1754年~1829年)の「遊覧記」や「外濱奇勝」にも書かれていることから、江戸時代にはすでに行われていたことがわかります。
虫と蛇と龍
津軽平野では、集落の入り口に安置されている「龍」を見かけます。頭部は木で彫られ、胴体は稲わらで作られています。この龍が「虫」です。
『虫』という漢字はそもそもは蛇の事を表す象形文字です。蛇の事を昔は「ながむし」と言いましたが、蛇や龍を水の神様として祀る蛇信仰や龍信仰と相まっていると思われます。
「虫」は毎年新しく拵えます。1メートル程度の小さいものから、10メートルを超える大きいものまで。大きい虫は集落の入口に安置し、小さい虫は水路に流します。
虫送りの日、主役の「虫」の山車を先頭に、太鼓、鉦、笛の「囃子」、「荒馬(あらうま)」、「太刀振り(たちふり)」の行列で集落を回り、五穀豊穣と無病息災を願います。
囃子に合わせて荒馬や太刀振りの跳人(はねと)が踊り、各家庭では家の前に酒やお菓子や料理用意して一行をもてなします。
集落を回って村の入り口に来たら、虫を安置します。害虫や悪霊などが入ってこないように、守ってもらうのです。
荒馬
津軽の虫送りには荒馬と太刀振りがつきもの。トラクターの無い時代、農作業には馬が欠かせませんでした。荒馬はその馬と手綱を引く人に扮して、囃子に合わせて踊る伝統芸能です。
三人一組で、真ん中の人が馬に扮し、両端の人が手綱を引きます。馬の頭は木で小さめに作られ、胴体は竹ひごで編まれています。あっちに行ったり、こっちに行ったり、倒れ込んだ馬を手綱が引っ張ったりと、本物の馬のように動き回ります。
南部地方や秋田県に行くと「駒踊り」と呼ばれる伝統芸能があります。南部は昔から有名な馬の産地でした。囃子や動きは違いますが、同じ流れを汲む芸能だと思われます。
まだ娯楽が少なかった時代、津軽のもつけ達は身近な馬に模して、踊ったり、おどけてまわったりして、さなぶりの宴会を楽しんでいたのでしょう。
太刀振り
太刀振りと呼ばれる行事は日本全国にあります。津軽での太刀振りは虫送りや、旧岩崎村の春日祭りで行われます。太刀振りの跳人が囃子に合わせて太刀を打ち合い踊ります。太刀は木の棒で、長さは集落によって違いますが、どこでも色鮮やかに飾りつけます。囃子や跳人の動きはネブタ祭りとよく似ていますが、歴史的に、太刀振りから派生していったと考えられます。