虫送りとさなぶり

虫送りとさなぶり

虫送りやさなぶりは、かつては日本中で行われていた田んぼの行事です。日本人は昔から米を作ってきました。5月~6月になると親戚、縁者、地域の人達が集まり、みんなで田植えをします。昨日は隣の○○さんの田植え、今日はうちの田植え、明日は親戚の△△さんの田植えという具合に順番に行います。

今と違ってトラクターがあるわけではありません。1本1本、手で苗を植えていきます。田んぼによっては胸まで泥につかってしまうところもあって、大変な重労働です。子どもも貴重な戦力のため、学校は「田植え休み」がありました。「となりのトトロ」にはサツキとメイとお父さんで自転車に三人乗りでお見舞いに行くシーンがありますが、病院でサツキが「今日、田植え休みなの」と話しています。

田植えが終わると、稲や農作物を食い荒らす害虫を駆除するための祭り「虫送り」が行われます。たいまつに火をつけ、太鼓や鉦をならしながら田んぼのまわりを回って豊作を祈願します。そもそもは、たいまつの火に虫が飛び込んできたり、煙でいぶすことで害虫を払おうとしたのですが、その信仰的な部分が残って現在の形式になりました。かつては日本全国で行われていましたが、時代と共に農業の形が変わり、今では行われているところは少なくなりました。

稲につく蝗(イナゴ)

さおりとさなぶり

「さ」は田んぼの神さまのことを指します。田植えを始めるときに行う神事を「さおり」といいます。田んぼの神さまを迎える祭りごとなのですが、田んぼの神さま「さ」が降りてくるから「さおり」です。

そして、田植え後のお祭りを「さなぶり(早苗饗)」といい、「さ」が昇って行く「さのぼり」が訛ったものだと言われています。さなぶりは、田んぼの神さまに無事に田植えが終わった感謝をささげ、豊作を祈願し、田植えの労をねぎらってみんなで宴会を催します。さなぶりは田植えが終わってホッとひと息つける楽しみなお祭りです。

また、田んぼに苗を植える女性のことを早乙女(さおとめ)といいますが、元々は田んぼに来ていただく神さまに仕える女性のことを指します。今でも田植えを始めるハレの日に、早乙女の衣装をまとった女性が手で田植えをする行事が行われています。

早乙女(さおとめ)

虫送りの神話

古語拾遺(こごじゅうい)という平安時代の歴史書に神話が書いてあります。大地主神(おおとこぬしのかみ)が田植えをするときに、大勢の人が手伝いに集まってくれました。そのお礼に大国主命は家畜を絞めてみんなにご馳走したのですが、それを知った穀物の神さまである大歳神(おおとしのかみ)はカンカンです。農作業に大事な家畜を食べてしまうとは何事かとお怒りになり、すべての田んぼに虫(蝗)をつけ、苗は枯れてしまいました。

虫にやられてしまった大地主神は困ってしまいました。なぜ虫が発生したのかを占うと、大歳神のしわざだということが分かりました。そして大歳神に白猪、白馬、白鶏をささげて謝りました。

怒りをおさめた御歳神は虫を払う方法を教えます。

麻柄で桛(かせ。凧糸を巻くような道具のこと)を作り、その麻の葉で虫を払う。天押草(ゴマノハグサのこと)で虫を押す。烏扇(ヒオウギのこと)で虫を扇ぐと虫はいなくなる。

それでもいなくならない場合は、田んぼの溝口に牛肉と男性器の形のようなものを置き、さらに田んぼの畦には薏子(つし。ジュズダマのこと)と、蜀椒(しょくしょう。山椒のこと)と、呉桃(くるみ)の葉と、塩を置く。

その通りにすると虫はいなくなり、豊作になったとのことです。これが虫送りの起源と言われます。

また、このことで牛や馬は食べられることが無くなり喜んで歌い踊りました。これが荒馬の起源と言われます。

男性器のようなもの